エネルギーも非中央集権化。 持続可能な社会は「楽しい」から生まれる

株式会社 sonraku 井筒 耕平さん

巨大物流会社で感じた違和感。「環境を守る」より 「社会の作り直し」をしたくなった。

 北海道の大学・大学院で水産学を学んだ後、物流の会社に就職して感じた違和感をきっかけに、 27 歳で名古屋の大学 院に入学。持続可能なエネルギーについて学んだ後は、導かれるように岡山にたどり着いた。

 学生時代、バックパッカーをしていた経験から、「国際関係の仕事がしたい」と思って、院卒で物流系の企業に就職しました。けれど働く中で、部長になり課長になり … とこの会社での人生が見えちゃったんですよね。会社を辞めようと思って、海や山で遊ぶのも好きだったから、環境保護の仕事をすることも考えました。でも、環境保護の一方で、物流業のような経済活動も存在している。守る方だけではなく、経済活動 1 つ 1 つを組み替えることで持続型社会をつくりたいと思ったんです。 それで地元の大学院で「持続可能な社会をつくる」というテーマでバイオマスの勉強をしました。

 大学院時代にある地域のエネルギー関連の調査をし、「人口1400人の村が、年間 4 億円をかけてエネルギーを買っている」という事実に驚愕。その村は、ほとんど自力でビジネスをしていないにも関わらず、エネルギーに莫大なお金を使っている。これは持続可能なモデルじゃないなと。昔は地域で水力発電や林業でエネルギーを自給していたんです。 エネルギーの生産者側だった地域が消費者側になってしまい、エネルギーを交付金で購入する、という過程を知り、限界が来てると感じたんです。

 その後、エネルギーを研究する東京のNPO法人で働き始めました。ここでは知事や国会議員と話したり、国際会議もしたりと、刺激的な毎日でした。 ただ、政策決定したところで実際に実践するのは地方です。もう少し地方でやってみたいなと感じ始めた頃に、そのNPOが岡山県備前市でビジネスを立ち上げることになりまして。移住した後、より現場を知るために美作市の地域おこし協力隊として働きました。

西粟倉村のC材(低質材)を燃料に。やってよかったと思いつつ、 課題は残る。

 村内で間伐された木材のなかには、そのままでは木材として利用できない「C材」と呼ばれる低質材が豊富にある。遠くで生まれるエネルギーにお金を払い、近くで生まれるC材を安く手放している村の状況に井筒さんは目を付けた。

 地域おこし協力隊の任期が終わり、再生エネルギーの導入コンサルティングをしていたご縁で2014年に西粟倉に来ました。以来、西粟倉の C 材を薪として燃焼させ、日帰り温泉施設や宿泊施設で使う、バイオマス事業を 3 年やっています。うちが運営させていただいている「あわくら温泉 元湯」でも、薪ボイラーを使用して温泉を沸かしています。カフェ機能もあるためか、最近は、移住者の独身男子が元湯の常連として増えてきているように感じますね。スタッフたちが楽しそうに働いているのを見ると、事業を始めてみてよかったなあと思います。

 ただ、厳しいことが三つあります。一つ目は収支。林業を支えるためのバイオマスなので、仕入れが高く売値が安い。バイオマス事業は基本的に赤字なんです。その代わり視察の人も来て宿泊されるので、集客の役割は果たしているとは思いますが。

 二つ目が冬。雪が降ると薪が湿って全然燃えなくて。そういうときは施設のインフラとしては厳しいです。

 三つ目が人材。若い人は成長実感が欲しいだろうから、ただひたすら薪を割ってもらうのは厳しいかなと 思っています。実際、薪割りを安定的に担ってくれているのはかなりの割合で高齢者。

 この三つの厳しさを踏まえると、事業は地域の課題・社会的課題からやらないで、楽しいことからやった方がいいよなーって思います。

地方分権・持続可能な 地域を増やしたい 自分の実践を他の地域でも活かして

 大学院を二つ卒業した井筒さんは、実践者でありながら研究者としての意識も持ち続けている。西粟倉で実践と研究を繰り返してきたことで見えてきた、「地域の持続可能な仕組みの在り 方」を他の地域に広げたいのだと話す。

 日本中がもっと地方分権化して、持続可能な地域がたくさん育っている、という状態にしたいですし、そういうことを伝えていきたい。現状、コンサルさせてもらっているところが 6 地域くらいありますが、研究・提案をするコンサルで終わるのではなく、実践に繋げたいと思っています。  

実践する意味というのは、お金と人をダイレクトに感じられる手触り感なんだと思います。研究だけだと実際にお金を動かしていない。実践していると、お金も動くし一緒に動く人の気持ちもどんどん変化していくので、考えることが出てくる。それって、やってみないと決して分からないことだから。

 僕は他の人がやってないことをやりたい。西粟倉はもう僕がやらなくてもやる人がたくさん集まっているので、いいなと思っています。これからも西粟倉にも関わりながら、もっとプレイヤーを探している他の地域 にも関わっていきたい。そういう地域の人が一歩でも前に踏み出せるよ うに、西粟倉の接続可能な村としてのノウハウを活かしていければと思っています。そして、実践したことをコンセプトやメタレベルに持っていって、他の地域の参考になるように、ちゃんと語れるようにしたいと思っています。

 今は神戸在住です。関西拠点に、新たな、誰も僕のことを知らない人間関係の中で、新しいチャレンジをしていきたいですね

株式会社 sonraku HP:https://www.sonraku.ninja

写真:MOROCOSHI(https://morocoshi.com/)