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解説!村のあれって どうなっとん?
西粟倉の「今」を紐解く
今月のテーマ 地域おこし協力隊ってどうなっとん?(2)
はじめに
11月号から今月号にかけて村で活動する地域おこし協力隊を紹介しています。11月号では、協力隊とは何なのか、そしてどのような活動を行っているのかを紹介しました。協力隊は任期中に与えられた任務の他にもさまざまな活動を行い、村にさまざまな効果を加えてくれています。
今月号では、(一財)むらまるごと研究所で協力隊として活動しているかたわらら一級建築士として地域のコミュニティや場づくりに関する取り組みを精力的に企画・実施している秋山 淳(あきやま あつし)さんにインタビューを行い、村内での活動やその想いをうかがいました。
むらまるごと研究所での活動〜分野をこえて地域を知る〜
秋山さんはこれまでむらまるごと研究所で、この村の住民がより豊かに暮らしていくには何が必要か、という問いを念頭にその実現のために企業や研究機関と連携した地域課題解決、研究開発・実証をおこなっています。また関係人口やテクノロジーとこの村をつなぐことを目的に活動拠点「むlabo(ラボ)」の運営もおこなっています。
秋山さんがむらまる研で活動する際に大切にされているのが①地域の情報・資源を記録・可視化し村の個性を未来に残すこと、②必要な仕組みを新しく生み出すことです。①では例えば、古い写真や屋号・小字の情報、この村の生物に関する情報を記録していく活動に取り組み、②では建築士として空き家流通・対策に向けた研究や地域内での資源循環に関する企画に取り組んでいます。
今回の特集では、そんな秋山さんがむらまる研での活動を超えて「地域コミュニティ」や「居場所づくり」を重要視して取り組まれた活動として、今秋、森の中で行われた芸術イベント「森々燦々(しんしんさんさん)」や社会福祉協議会が運営する「よりみち」の改修プロジェクトについて紹介します。
「森々燦々」 〜森の中に人の居場所をつくる〜
「森々燦々(しんしんさんさん)」は10月12日(土)〜11月10日(日)にかけて、西粟倉の森林を舞台に初めて開催された芸術展示やワークショップのイベントです。秋山さんは発案者かつ実行委員長としてこのプロジェクトを実施されました。
地域でのつながりが新しいアイデアに
協力隊として西粟倉で5年間活動する中で、さまざまな分野の方々と、そしてたくさんの村の方々とお話しする機会を頂き、多くの学びをいただきました。その結果として、むらまる研の動だけでなく、ここに生きる一村民として、「こういうものがあったらより村が楽しくなるのではないだろうか」「これならできそう」というアイデアがうまれてくるようになりました。
村の中でも芸術や文化に触れることができたり、自分の頭の中にあるアイデアや考えを自由に表現する場が誰にでも与えられている、そんな場があればと思い企画しました。普段人が足を運ぶこともないような実際の森林を舞台にすることで、森での体験がいつか一人ひとりの心の豊かさにつながるような、そんな風土が生まれるはじめの一歩になれば良いなと思い、この村が大切にしてきた森に焦点をあてたイベントとなったんです。
「セカイ」の見え方を共有する時間を設計する
実施に向けて実行委員やボランティアの方々と共に大切に掲げていたコンセプトが「セカイの見え方を共有する」というものでした。実行委員のみんなで考えたものです。これは、一人ひとりが見ているセカイは異なっていて当然だということを受け入れ、その上でその違いを互いに知ることで新しい発見や興味につながり、そのことがいずれそれぞれにとって森や村や施設、取り組みなどこの地域の新しい楽しみ方につながればいいなという願いを込めてこのコンセプトとしました。イベント日当日は世代や性別を問わず、村内外合わせて200名を超えるたくさんの方々にご参加いただきうれしかったです。本当にありがとうございました。
「よりみち改修プロジェクト」〜多世代の居場所を考える〜
秋山さんはこれまでのように地域のイベント企画や場づくりだけでなく、一級建築士という専門性を活かし2023年1月に西粟倉村内で「一級建築士事務所ヒトトキ設計室」を開業。空き家再活用に向けたプロジェクトや、地域の居場所づくりに向けた調査や研究、施設改修計画などを手掛けています。そのなかで、10月に新しくリニューアルした「多世代交流拠点リフレッシュプラザよりみち」(以降「よりみち」)の設計改修における設計監理を担当されました。
もともと「よりみち」にはよく通っていました。それはいろんなコミュニティに参加したいという気持ちもあったのですが、役場や中学校の近くにあり前面が開かれている豊かな場所だなと思ったこと、そして地域の居場所としてとても重要そうな場所だなぁという個人的な興味があったからです。
「よりみち」に遊びにいくようになって約2年半の間、地域の方々からたくさんのお話をお聞きしたのですが、その中でも特に印象的だったのが「誰とも約束しなくても、ここに来たら寂しい思いをしないんだ」という言葉です。世代問わず孤独が社会問題になっている現代の中で、誰かを頼ったり、頼らずともただ同じ時間を過ごし、安心感を得られることの素晴らしさ、を改めて実感したことをよく覚えています。これまではご高齢の方々が中心となって利用されてきた施設ですが、この施設は世代を問わず地域の宝になるとも思いました。とりあえずここに来たら、孤独を感じず、何かしら充実して帰れる場所は、すごく大事だと思いました。
設計の中で大事にしたこと〜交流とは何か〜
私は空間を設計することはあくまで手段に過ぎないと考えています。その空間でどのような人の行動が生まれ、その結果、地域内でどのような人と人の関係性が生まれるのか、そういったことが何より重要で何より私の興味のあるところです。それは設計の内容にも影響してきます。
例えば、以前「よりみち」は開かない窓しかなくそれでも、手を振るだけであったとしても村の園児が散歩で前を通ることが楽しみだと利用者の方々からは聞いていました。
なので、窓を開けられるようにするだけでなく縁側を設け、中にいる人も外にいる人も目的は違えど近くを通った方々で、話したり、触れたり、笑ったりとコミュニケーションが生まれる空間を設計しました。また、縁側以外にも、靴脱ぎ履きが大変な方やベビーカーでも利用しやすいように土間スペースもつくりました。これらのような、内か外か曖昧な空間では気軽な会話や適度な距離感などの安心感が生まれると考えています。直接話さなくてもそばで地域の子どもたちが楽しそうに笑っている。そんな景色を近くで見ることができるだけでも、それはもしかしたら誰かの孤独を防ぐことにつながるかもしれない。そんなことを考えた設計です。「よりみち」はもともと多世代交流拠点としてつくられたものです。ぜひ、世代を問わず足を運んでみてもらえればと思います。
秋山さんにとって地域の人々の交流とは
「森々燦々(しんしんさんさん)」や「よりみち」など、地域の人々とたくさん交流していることが分かりました。秋山さんにとって地域の人との交流することはどういうことなのかうかがいました。
私の場合は交流というより、純粋にいろんな方の人生のお話や、その方が今どのような見方でこのセカイを見ているのかを聞くのが好きなだけだったりします。そしてそんな好奇心を受け入れてくれる西粟倉の地域性や人の温かさは、何よりもこの5年間で私がこの村を好きだなあと思ってきた理由の一つです。あわくら会館の近くを歩いていると様々な世代の方と挨拶することがあるのですが、なんとなく誰かとこうして挨拶を重ねただけで自分にとっては孤独を感じない理由になっているのではないだろうかと思ったりもします。そして、森々燦々の企画が無事に実行できたのも、ひとえに実行委員として集まってくださった村の有志のメンバーや賛同いただきたい村内企業、ボランティアの皆さんのお力があったからです。よりみちの設計を任せていただけたことも利用者の方としっかり対話させていただけたことも、これまでの地域の方々との交流があったからこそだととても感謝しています。
自分に言い聞かせている言葉ではあるのですが人と「つながること・つなげること」がゴールではなく、「つながった先に自分が何を行動するか」が大切だと思うので、これからもまずは自分自身が「こうなったらいいな」と思ったアイデアは行動としてこのセカイに表現していこうと思います。
協力隊任期後の活動について
何よりまず、協力隊として移住してきて5年間、たくさんの地域の方に助けていただきました。本当に、本当にありがとうございました。今後については、具体的なところでは空き家問題の解決に向けて住宅や空き家の相談窓口設立や流通の仕組みを考えること、大学などと地域の居場所や孤独に関する研究を行なうこと、などを予定しています。そのほかにも生物や自然と人の居場所についていろいろ試してみたりしたと思っています。私の原動力は、いろんな人と会話して出た何気ない一言や思い、アイデア、といったものと私の中のアイデアがつながって、自分にとっても新しい仮説が立った時の好奇心です。だからこそ、またぜひ今後ともご相談でもそうでなくとも気軽に声をかけていただきたいですし、面白そうな集まりがありましたらぜひお声掛けいただけたら嬉しいです。
今後の協力隊について
11月号と12月号で村の協力隊について紹介しました。最後に、役場で協力隊の担当している萩森惇実さんに、今後の地域おこし協力隊についてお話を聞きました。
協力隊制度を活用して移住してくる皆さんは、西粟倉村を単なる地方移住先としてではなく、明確な想いや成し遂げたい目標を持って選んでいると強く感じています。
その中、秋山さんのように普段の業務範囲を超えて、自分のスキルを活かして地域に貢献する取り組みは珍しく、その姿は他の移住者にとっても刺激となっています。
今年度役場では、各区長からの「移住」関連課題の聞き取りを行い、地域側の相談役を整備することで、協力隊員の村での生活支援体制を強化しました。協力隊員や村内事業者だけでなく、地域住民全体で連携し、共により良い西粟倉村の実現に向けて取り組んでいきましょう。今後ともご協力よろしくお願いいたします。
広報にしあわくら12月号全文は以下でご覧ください。