2026年度・アプリ村民と青木村長との座談会を開催しました!

この対談の感想をお伺いするアンケートを実施しています。本文の最後からご案内していますので是非ご回答ください!

2026年9月14日、アプリ村民票のランク特典として、今年3年目となるアプリ村民と青木村長との座談会を開催しました。

今回座談会に参加した皆さんは、いわゆる「関係人口」という形で村外に居住しながら、西粟倉村に関わっています。今回は、この1年の村の現状と、村に広がりつつある「ネイチャーポジティブ」という新しい流れを青木村長に伺いながら、森と人との関係性、自然体験と教育、そして関係人口がどのような形で村に関わっていけるのかを考える機会となりました。村からは青木村長のほか、役場でアプリを担当する水杉さん、武部さんも参加しました。 アプリ村民票運営事務局(丸山・高島)が進行を務めました。

自己紹介

鉤流(つりゅう)さん:瀬戸内市に住んでおります。企業に勤めていますが、会社の中にビオトープという施設があり、絶滅危惧種の淡水魚など貴重な生き物がいくつか生息しています。そのビオトープを活用して、子どもたち向けの自然学習体験などを企画しています。

今回、村の「森々燦々」にワークショップで参加させていただけることになり、その機会をいただいたことに感謝しています。今日は、森と人との関係性といったところをお話を伺えたらと思っています。よろしくお願いします。

渡辺さん:渡辺と申します。出身は兵庫県佐用町で、3年前に東京からUターンで帰ってきました。ただ、実際に佐用町に住んでいたのは中学生くらいまでなので、帰ってきたときは浦島太郎のような感じで、世代が二回りくらい変わっていて知っている人も少なく、同級生も基本的に都市部に出てしまっている状況でした。

そうした中で自治会の役員をやるようになったのですが、いろいろ話し合いをすると、前提となる情報が全く異なっていて、なかなか話が進められない。それで、昔の道——たとえば参勤交代で鳥取から西粟倉を通って姫路へ出る道——が一つの文化としてつながっていることから、鳥取方面へ足を運ぶ中で、西粟倉のあわくら会館やお茶を飲める場所を見つけ、西粟倉と関わるようになりました。それがアプリ村民票に登録し、今回の座談会に参加させていただいた経緯です。

青木村長:西粟倉村村長の青木です。今4期目で、村長になってから15年になります。その間4回選挙をやりましたが、一度も無投票になったことはなく、常に対立候補がいる非常に厳しい状況の中で、なんとか今をつないでいます。前回の選挙も僅差で、村が真っ二つに分かれたようなところがありました。それはやはり、合併をしないという決断をしてから今日までの間、地域住民の皆さんに対して、今までと角度の変わった村づくりへどんどん舵を切り、ある意味強力に進めてきたことの裏返しなのかなと思っています。

この4期の間にお亡くなりになった方もたくさんいらっしゃいますし、周辺の状況もだんだんと変わってきたなと感じています。

西粟倉村の現在

青木村長:西粟倉村は今、約1,250人の人口のうち、移住者が2割を超えています。その中で百年の森構想を立ち上げ、森林・林業の再生を図ってきました。ただ、平成の大合併以前の林業と、それ以後の林業は全く形が違います。合併をしないと決断したときには、以前は非常に高かった森林の価値がだだ下がりになっていて、この森林に手を入れて本当に復興できるのかと、懐疑的な状況の中で百年の森構想をスタートさせました。

その後、森林を再整備することの価値観が、従来の「いい木を作って財産を作っていく」という形から、「自然とうまくミックスして我々の将来を作っていく」という形に、だんだんと変わってきました。というのも、百年の森構想に着手してから、気候変動が非常に顕著になり、強烈な自然災害がどんどん起きています。そういった文脈の中で、我々がやっている森の整備は自然環境の整備でもあり、自然とうまく付き合っていかなければ、これから人間として生き延びていけるのだろうかという、そもそもの疑問に最近ぶち当たっています。今年も大きな地震があり、線状降水帯による大水害で人命が失われました。戦後、我々が積み重ねてきた所業がどうやら自然とミスマッチを起こしているということに、最近気づき始めたわけです。

そういう中で西粟倉村が今一番考えているのは、自然との関係性、自然とどう付き合っていけばいいのかということです。一番自然が豊富にある地域の住民でありながら、意外と今まで無頓着であったものを、もう一度考え直さなければいけない時点に立っている。その現場を持つ人間として何から始めるかということですが、人材も集まってきていますし、そういったことに興味や関心を持つ方が非常に多くなっているのは、ありがたいことだと思っています。今後は、国や県や市町村といった行政がやってきたことに企業さんが入ってくる。これはこれから行政を進めていく上で絶対的な要素だと思います。企業さんの力を得ながら、皆さんにちゃんと理解していただけるきっかけづくりができたらいい。自然と人間の深い関係についていろんな気づきがどんどん生まれていくと思いますが、その入り口の役割を村が果たせたらいいなと、最近思っています。

そして、去年あたりから特に「ネイチャーポジティブ」という概念が西粟倉に入ってきています。今まで西粟倉村は、田舎で起業しようという「ローカルベンチャー」を推進してきて、会社にすると45〜46社、事業としては70事業くらいが動いており、ある意味ローカルベンチャーの聖地とも言われています。これからは、自然というものをうまく活用しながらのベンチャー——アントレプレナーという言葉をとって「ネイチャープレナー」、つまり自然資源を活用した事業家という動きが非常に出てきています。

それと、従前からオオサンショウウオの生態調査に取り組んでいます。オオサンショウウオは淡水域の生態系の頂点に立つ生き物ですので、その動向、産卵活動などがどのように行われているのかを、実際の河川を使って調べています。特に上流部の河川には堰堤があって段差があり、魚などが一度水で流されると上がってこられないという断絶が起こる。それがどういう影響を及ぼしているのかを、オオサンショウウオを例に調べる活動が盛んになっています。魚道は構造物として今までもありますが、本当に魚がちゃんと上がっているのかを厳密に調べると、面白い生態がわかります。流れに沿ってまっすぐな上がり口を作ってもなかなか上がらないのに、流れに対して直角方向に階段のような上がり口を作ると、たくさんの生き物が上がっていく。そういったことも分かりましたし、この活動を通じて、日本中はもとより外国の方でも、その生態に興味を持つ方が関わるようになってきています。

またエーゼロ社なども農業分野で、先ほど鉤流さんがおっしゃったようなビオトープを作り、そこでタガメが目に見えて復活してきたということがあって、観光や学習も含めて、子どもさんたちに田んぼづくりを経験してもらいながら自然観察体験をしてもらうということも盛んに起こるようになっています。これが去年おととしくらいから起こっている、今の西粟倉の新しいトレンドだと思います。

鉤流さん:私が取り組んでいる活動とすごく近しいところがあって、大変興味を持ちました。なぜこのネイチャーポジティブというところに着目されたのでしょうか。

青木村長:皆さんご存じのように、自然の動植物などいろんなものが失われていく傾向にあります。先ほど渡辺さんもおっしゃっていましたが、昔と今では全然違うわけですよね。故郷に帰ってくると、まず動植物の数が少なくなっていて、川に魚がいなくなっている。歴然とした差があります。私自身も村長になる前からずっとそのことを思い続けてきましたが、それがいよいよ仕事としてそういうところに取り組めるようになったのは、本当にここ最近の話です。今までだったら、そんなことを言ったって「そんなものを相手にどうするんだ」と言われたわけです。ただ、自然は単に保護の対象ではなくて、それをちゃんと活用し、我々がそこに寄り添っていかなければ我々自身も生きていけないという新しい概念が生まれつつある。いろんなことを考えてみると、なるほど、そりゃそうだなという思いが最近起こってきています。

百年の森構想も、実は初めは放置された人工林をちゃんと手入れしていくところから始まりました。西粟倉村はどう考えてみても、山の面積の大部分が人工林で、こんな比率でいいわけがない。本当はもう少し広葉樹林がたくさんあった方が、動植物の生態系の保存も含めて、本来の山の機能を果たせるのだろうな、と。戦後に作られた人工林はやはり不自然で、ここは何とか絶対にしていかないといけないという思いは常日頃持っていました。そして、職員の中でそういうことに一生懸命取り組む人間が出てきて、それが一気に外の人材や会社さんとつながっていき、生態を調べるときには大学の先生ともつながっていった。そこで勢いがついたのではないかと思います。

山と川、自然との付き合い方

渡辺さん:私がいつも思っているのは、田舎にいるのに自然や川といったものに親しめない環境になっているような気がすることです。私は佐用町の久崎というところに住んでいますが、15年ほど前の大洪水のあと河川を大きく改修しまして、川幅を広くして堤防を高くし、川岸もそれまでの石垣が全部コンクリートになりました。水量を流すために河原がなくなって、いきなり垂直にコンクリートが立ち、柵があって川の中に入れない。せっかく田舎に住んでいるのに、身近に川や山があっても近づけない。それは非常にもったいないなと思っています。

西粟倉の場合は、アクティブな学習や自然の探検クラブなどでいろいろと自然の中に入っていると思いますが、佐用町で言うと、申し訳ないけれど都会にいるのと変わらない。基本的に街中も歩かず、車でドア・ツー・ドア。街の商店もどんどん閉まって人が歩いていないので、顔を合わせることもほとんどないという状況です。これは何とかできないかなと思っています。たとえば京都の哲学の道は、自然とは直接関係ないですけれど、歩きながら思索したりできますし、広島に行ったときには平和記念公園の木々の下のベンチに座って、気持ちいいなと思っていました。帰ってきたらそういうところがないというのが非常にもったいないと思っています。

青木村長:僕も同じ思いを持っているんですよ。確かに河川の護岸整備をしたので、田んぼが流されたり水に浸かったりということはなくなったでしょう。しかし、昔そこにあった、我々の心を癒やしてくれる、少年の心を楽しませ興奮させてくれるような自然は本当に姿を消しています。これはやはり一つには行政の影響なんです。河川は国土交通省の管轄ですが、川に対する関心は「治水」という考え方、つまり皆さんが安全に暮らせるように水をうまく流すということですから、用水路のようなものになってしまっている。今は国の官僚とも話す機会がありますが、自然災害の被害が大きくなっているので、余計に水をどう収めるかということを一生懸命やっているわけです。

ただ、それだけではなくて、なぜああいう深くて幅広い河川にしなければいけないかというと、いっぺんに水が流れるからです。僕は少年時代、川で遊んでいましたが、夕立がどーっと降っても川の水は全然濁らなかった。なぜかというと、その雨量をしっかり受け止めるだけの落ち葉のベッドが山にあったからです。そこがちゃんと吸収して持ちこたえてくれて、いきなり濁り水を出すことはなかった。今は雨が降ればてきめんに川が濁ります。そういう緩衝帯がないわけです。つまり、川には山がすごく影響している。川をこうしろと言うのではなく、山を変えないとそうはならない。百年の森構想でやっていることが、そこで一つにつながるわけです。これは川の問題ではなく、山の問題なんです。

百年の森構想で山をちゃんと整備すること、広葉樹林帯もある程度増やしていくことが、山が水を保持する、すぐには流さないという役割につながります。今は雨がドーンと降ってドーンと流れて、すぐに流れ切ってしまうので、お天気が続けば今度はすぐに水不足になる。極端なんです。昔はいっぺんには流さず、じわじわとずっと流してくれるので水不足にはならなかった。結局これは、何億年も自然が調和してできているものに、人間が自分の合理的な生活を手に入れるために少し手を入れすぎたのかなと。本来はちゃんと調和しているはずのものが調和できなくなっている、そういう自然のしっぺ返しなのかなと、最近特に思うんです。自然と人間がうまく調和していければもっといい生活ができるはずなのに、人間が覇者のように自然を抑え込むようなやり方で生きてきたな、と。

山と川はつながっていますし、山と農業・食料を作ることも、山とエネルギーを作ることもつながっています。中山間地域は国土の6割も7割もあるわけですから、そこがちゃんと国土を維持する仕組みを作っていくためには、もう少し自然に寄り添って、我々が自然の中で生きる術を学ぶべきだと思います。産業としての科学技術の進歩はそれなりに進めていかなければなりませんが、その反面、自然の中の調和を崩してはいけないという思いも非常に持っています。そういうことを村の活動を通じて国や皆さんに理解していただいたり、「なるほど」と気づいていただく。そういう存在感のある村になりたいと僕は思っています。

森と人の関係性、観光のこれから

後半は、鉤流さんから「森と人の関係性の再編集」「森林空間の活用と観光政策のこれから」「自然体験と教育の接続」、渡辺さんから「教育」「医療」「地域の産業」というテーマを事前にいただき、それぞれ村長に質問していただきました。

鉤流さん:今回、森々燦々のワークショップに参加させていただくにあたって、テーマとして森と人との関わりというところをもう少し深掘りしていきたいと考えています。ワークショップの中では、森を体験していただきながら森の価値を再認識していただきたいと思っていて、先ほど青木村長がおっしゃったことにつながるのではないかと感じています。この辺りをもう少し詳しくお話を伺えますでしょうか。

青木村長:森が大事だという話はさせていただいたと思いますが、では「どのように大事なのか」ということを、我々がこれから皆さんに気づかせないといけない。そして気づかせる前に、まず我々自身が気づかないといけません。ですから、そういった研究なりワークショップなりが必要で、たとえば今回の森々燦々では、森の中でバイオリンを弾くとどう響き、どういう香りとともに音が自分に届くのか。室内で演奏するのとは少し違う状況があると思うんです。自然との対比の中で何が得られるのだろうかということに、非常に興味があります。

岡山県北を中心に、瀬戸内国際芸術祭と同じように3年に1回「森の芸術祭」という芸術祭が開かれています。ただ、森の芸術祭と銘打ってはいますが、実は県北の美術館でいろんな展示をして、そこを回るというお祭りなんです。うちはそれに森々燦々をぶつけているわけです。「本当の森の中の芸術祭、森の芸術祭とはこれなんだ」ということで、森の中で映画を上映したり、動画を映したり、音楽を奏でたり、様々な活動をすることによって森の可能性にアプローチしていこうという試みです。今までなら「そんなことをやったって」と言われたことをあえてやるのが森々燦々のいいところだと思っていますし、必ず気づきがあると思うので、どんどんやっていただければと思います。

観光政策のこれからという点にも関わりますが、基本的にはこれをある程度ビジネスにしていく形にすることが非常に大事だと思います。どうビジネスにするかは、皆さんのアイデアなり、やる気なり次第です。村には株式会社百森という、森林整備事業を委託している会社がありますが、そこの事業としても、森林空間をいかに使うかということで、たとえば企業の研修を取り入れるといったことをやっています。企業さんが森を使うメリット、森を考えることが社員の皆さんの働くモチベーションにどうつながっていくのか。そういったところにヒントはたくさんあると思います。昔は山と企業なんて全くつながらなかったものが、やっとつながり始めたなという感じが今しています。

まだまだ可能性はたくさんありますし、教育にも当然使っていける。我々にはまだまだ気づきが必要です。自然というのは単なる保護の対象ではない。保護するどころか、我々は自然の恵みを受けなければ人類は絶対に生きていけない、というくらいに思っていますので、そういった方向に進んでいけばいいなと。そのきっかけとなることを、この村で仕掛けられたらと思っています。

鉤流さん:私が住んでいる瀬戸内市は、90%以上の水を伏流水や湧き水に頼っています。ということは、その源流にあたる西粟倉村がすごく重要な場所だと私は感じているんです。ですので、こういったワークショップなどを通じて、先ほど「気づきが必要」とおっしゃっていましたが、森から気づくことを拾い上げていきたいと感じています。よろしくお願いします。

自然体験と教育

鉤流さん:教育というところでは、自然体験と教育をつなげていけたらと思っています。私自身も会社のビオトープを活用して、子どもたちに体験を通して自然を理解してもらうということに取り組んでいますので、その辺りも何かつながっていけるところがあればと思っています。

青木村長:今、西粟倉村は小学生でも1クラスが10人程度です。10人程度ですが、教員はしっかりいるわけです。教員の皆さんは県の職員なので異動しますが、西粟倉に来た限りは西粟倉の教育をちゃんと考えて取り組んでもらわないといけないと、教育長を通じて伝えています。いろんな自然体験もありますが、基本的には、西粟倉のような環境の中で学びたいという児童・生徒さんを受け入れたいと思っています。先ほど渡辺さんがおっしゃった「もったいない」——本当にもったいないんですよ。だから、そのもったいなさに反応して「じゃあ西粟倉で子どもを学ばせようか」「教育で移住しようか」ということが、これからあってもいいと思っています。そんなにたくさんは無理ですが、今の1クラス10人なら、あと5人や6人はちゃんと普通に受け入れて普通に回りますので、意欲のある方や、都会の大人数の生徒の中でストレスや悩みを抱えている方も含めて、「こういうところがあって、こういうことをやっているよ」と伝えていければ、そういう人たちの役に立てればいいなと思っています。

鉤流さん:それは、たとえば私のような関係人口が何かお手伝いできることはありますか。

青木村長:あると思いますよ。せっかく西粟倉にこうやって縁を持っていただいて、積極的にワークショップなどもしていただける。それから、子どもがどんどん育っていくときに、今の教育に何が欠けているかというと、やはり圧倒的に自然との関わり合いや体験が足りていない。自然から教えなくても、自然に学ぶという体験が圧倒的に少ないんです。原体験として自然の中に身を置いて、そこでいろんなことを体験し学んでいくというのは、人生にとって非常に大きな役に立つと僕は思っています。ですから、関係人口の一人として、「西粟倉村はこんなことをやっている」「こういう受け入れ体制がある」「あそこに行ってみるとちゃんと受け入れてくれる」といったことを情報拡散していただければ嬉しいです。

渡辺さん:少子高齢化が加速しているのは日本全国ほとんどの地域に共通していますが、先ほどの自然の循環という考え方からすると、私はやはり教育が非常に長期的な観点から大事だと思っています。西粟倉の小学校・中学校は少人数ですし、Pocket(ポケット)のような場所でアクティブな学習が行われていて、都会に比べると逆に非常に恵まれている。自分で考えて自分で行動するという学習、生活をしているわけです。逆に言うと、この5年、10年でどのような教育の成果があったのかを知りたいと思っています。

青木村長:成果と言うよりも、意志を持っている人が西粟倉に入ってきて、そういう枠組みを作ったというのが、この数年の西粟倉の進歩です。そこを通じて生徒がどう育ったか、従来はこうだったけれど新しくこうなった、という検証はまだできていません。しかし実際に施設を使う人は増えていますし、そういうフィルターを通せば、子どもたち本人に何かしらの気づきが生まれていることは間違いないと思います。何に気づいたかは別として、気づきが生まれている。そこは非常に前進しているなと思います。

チャレンジャーとして西粟倉に来て、学校を補完するような教育をやろうという思いつきを実践に移せている。チャレンジャーが自分の思い浮かべたことを実現できているということが今の西粟倉の進歩で、それはあらゆる分野でこれから起こっていくと思います。

村の未来と新しい関係性

青木村長:渡辺さんに提示していただいたテーマである医療や介護も、ものすごく大事な問題です。仮に地方創生が日本全国で実現できたとして、何が起こるか。西粟倉の現実的な未来として、おそらく10年か20年——20年もしないうちに——住民の半分以上が移住者になる可能性が高いと思います。そうしたときに、渡辺さんが寂しく思われているような、お宮さんとの付き合いや、お寺との付き合いといったものは、実際にどんどん関係性が薄くなってきています。今は墓のある人でも墓じまいをするなど、今までの関係性を一旦終わりにするという必要に、みんなが迫られているわけです。

ところが西粟倉村はどうかというと、ある意味新しい形で、たとえば新しく来た人たちがお宮さんとの関係性をどう作っていくのか。今までの氏子さんや檀家さんと同じ付き合いは、僕はあり得ないと思うんです。新しく来られた住民が昔のように墓の土地を探してそこに墓を建てるなんてことは、ちょっと考えられない。そうすると、お寺さんと新しい住民との関係性はどうあるべきかというのが、必ず変わっていく。今こんな事態になっている市町村はないと思いますので、半数以上がそうなれば絶対に新しい関係性を築かないと前に進めません。中山間地でお寺さんやお宮さんが残っていく、続いていくとすれば、どういう関係性を作らなければ続いていかないのか。西粟倉は必ずそのモデルになるはずだと思っています。

ですから今は本当に全てのことが課題で、全てのことがチャレンジャーにならないとできないような状況です。それを楽しむような風潮がなかったら堅苦しいですから、住民の皆さんがそれを楽しむような心構えで、新しいことにチャレンジする。ちっちゃいけれど、いろんな知見を世の中の中山間地にお住まいの皆さんに残すことができるし、これから田舎を目指そうとしている人にとっても非常にいい情報になっていくのではないか。そういう楽しみを皆さんに分け与えていけるような村になればいいなと思っています。

関係人口から見た西粟倉村

渡辺さん:私が西粟倉から感じていることを言わせてもらうと、外から見ると輝いている人が集まっていて、西粟倉に対する吸引力というか引力が非常に強いと思っています。たとえば去年・今年とJICAのフィールドワークで西粟倉に来た人がNEST(ネスト)に就職したとか。去年いた子が今年もいるので「どうしたの」と聞いたら「就職しました」と。非常に憧れを持って、未来が見えるような、自分のやりたいことが見つかったという形で西粟倉に来られている。そういう人が人を集める、そういう村になっているような気がします。

それから、私は佐用町に住んでいますが、月に3、4回くらいあわくら会館の図書館を利用させてもらっています。非常に使いやすくて、日本全国いろんな図書館に行きましたが、佐用町でもいつも言うんですけど、西粟倉の図書館が一番居心地がいい。有名な高知の「雲の上の図書館」など、有名な設計士がつくった図書館は確かに見た目は素晴らしいけれど、使い勝手からしたら私はこちらの方がいいと言っています。今年6月に大阪にできた新しい図書館も、スウェーデンやフィンランドの有名な図書館に似ていて立派なのですが、人口が多いと使い切れないというか、はみ出されてしまって、長居できないなという印象でした。規模や蔵書は人口で変わりますが、今ある1万、2万の蔵書だけでも、本当に全部読んだらすごい知識がつくでしょうし、気づきが得られるような図書館です。夕方になると小学生や中学生が来て利用していますし、本に触れる環境としては非常に恵まれているなと思っています。

青木村長:「外から輝いている人が集まっている」とおっしゃいましたが、僕は、村に来る前は色々苦労していても、この村に来たことで輝けることになった人が結構いるのではないかと思っています。そういう空気感があるのかなと。ただ人口も少ないし、これからという状況で何もかもがあるわけではないので、村自身が本当にチャレンジャーで、大御所のようにではなく、非常にチャレンジングなことをやってきたんです。それこそ相当変わったことをこの十数年間やってきました。皆さんにとっては変化の激しい十数年間だったと思いますし、住民の皆さんも大変だったと思います。でも、これがある程度落ち着いたときに、10年、20年と振り返ってみると、「こうやらなかったら、ここには来られなかったかも」と皆さんにも思っていただけるのではないかと思っています。

目の前のいろんな自分の価値観を変えていくというのは大変難しいことですが、そのきっかけはいろんなところにある。きっかけは気づきです。そういう人生の気づきを得られるような村でありたいと思いますし、そのためには我々がいつもチャレンジングでなければダメだと思っています。いろんなモチベーションを持っている方がここに来て、もがくことによって光っていく。いろいろとこすり合うことによって光るのかな、と。今までの人も良かったと思いますし、これからも、来る人は拒めず、去る人は追わず、そういう形でやっていきたいと思います。

ただ、こういう小さい村の存在は、知名度という意味ではいろんなツールを持って広がっていますが、やはり身近で、いろんな仕事なり目的なりで西粟倉に足を運んでいただけるようなことが必要だと思います。こうやって渡辺さんにしても鶴井さんにしても、西粟倉について喋っていただけるコメンテーターができているということは非常に大きな力だと思いますし、これがもっと広がっていけば相当大きな力になると思います。

村への提案と観光構想

渡辺さん:一つだけお願いがあるのですが、関係人口にも関係することで、西粟倉には「あるの森」や菓子店【店名要確認】など、レベルの高い飲食店があります。ただ、どちらも村の中心からちょっと外れているので、知っている人は知っているけれど、知らない人は全く気づかない。そういったところの露出アップですね。それから、あわくらんどの北にある、昔バイキングがあった場所は、西粟倉に来たときにちょっと食事ができる非常にいい場所なので、あそこをうまく活用できないかなと思っています。

青木村長:おっしゃる通りですね。今まで村はいろいろとチャレンジしてきたと言いながら、やはり皆さんにお任せの部分が結構あったんです。皆さんの自主性にお任せしてきたところがあって、私もそれは感じています。今後は、新しく皆さんをお迎えする「観光構想」を立ち上げることになっていまして、来られたときに単品ではなく、いろんなつながりや全体の中で、より多くの体験ができ、いろんな味の体験や経験ができる。来た人が過疎の村の中でもある程度の充実感を味わっていただけるような仕掛けが、今まで力が足りなかったなと本当に痛感しています。今後はおっしゃったようなところをしっかり統括して、「来てよかった」と言われるような状況を作っていかないといけないと思って、今やっているところです。ご期待ください。

渡辺さん:期待しています。

最後に

渡辺さん:私は佐用町にいて、一番足りないと言ったらおかしいですが、やはり行政・役場がリーダーシップを取らないといけないと思っています。「地方創生」と言って作業はしているけれど、目的がはっきりせず、言葉だけに踊らされて方向性がはっきりわからない。それに対して西粟倉は「こうやるんだ」という行き先がはっきりしているので、今後とも引き続きお願いしたいと思います。

鉤流さん:冒頭で「ネイチャーポジティブ」という言葉が出てきましたが、まさに自分が取り組んでいる活動とすごく近いので、何かご協力できることがあれば、寄り添ってお互い連携したり協力したりしながら関わっていきたいと思います。よろしくお願いします。

青木村長:今日はお二方から、本当に温かい気持ちで西粟倉村のアプリ村民になっていただいているという気持ちが伝わってきて、本当にありがたいと思いました。しっかりやります、一生懸命やりますので、またお力添えください。ぜひまた直接お会いしてお話ししましょう。

参加いただいたアプリ村民のご両名と青木村長、ありがとうございました!

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