グラフィックデザイナーから玩具職人へ。西粟倉村から広がるものづくりの世界。

木工作家として働く、関野意匠室+絡繰堂の関野倫宏さん。玩具づくりの中で関野さんが大切にしていることとは。

関野倫宏さん

デザイナーとして働きつつも、頭の片隅には玩具のことがあった。

武蔵野美術大学を卒業後、岡山のデザイン事務所で3年、情報出版社で9年。その後、現代玩具博物館に勤めてきた関野さん。その経歴は、「玩具を作りたい」という想いから始まり、辿りついたものだった。

僕は元々、幾何学形態や立体造形などの美しさや動きが、たまらなく好きなんですよね。玩具を作りたいという気持ちも大学に入る前からあったんですが、玩具職人にはどうやったらなれるのかがわからなかった。じやあとりあえず、大学でグラフィックデザインを学ぽうと。手に職つければ仕事にもなるし、独立してもやっていけるだろうし、色々なスキルを身につけることで玩具も作れるようになるんじゃないかと思ってね。

卒業後はデザイナーとして、12年間雑誌や名刺、Webなどを作っていました。人が欲しいものを形にする仕事の面白さもあるんだけど、自分が作りたいものをイチから作る…ということをやっばりやりたいなあと。それで現代玩具博物館(岡山県美作市)に「玩具作家になる修行をしたいんです」と言って応募して、働かせてもらうことになりました。そこでは木工室があって、自分の作りたいものに没頭することができるというのが志望動機でした。

館長の西田さんという方が、その辺にあるようなものを適当に加工して面白い玩具を作っちゃうようなすごい方だったんです。けれど、それまで誰もそれを図面に残せていなかった。それでデザイナー経験のある僕が函面に起こさせてもらい、西田ファンの大人向けの木工教室をやったりしていましたね。

図面を任されることで、木工の面白さとか玩具の仕組みにますますのめり込み、ここで玩具の知識と、木工のスキルを身につけさせてもらい、オリジナルキットの開発をしていました。

思い入れに応えたものづくり。お客さんに泣いて喜ばれることも。

2011年に西粟倉で木工作家として独立した関野さん。しかし自分の作りたいものだけでは軌道に乗らず、苦しい状況のなか試行錯誤が続く。ピンチを救ったのは、お客さんの強い思い入れを受け止めた商品だった。

博物館での修業は3年と決めてて、修行の終わり頃に妻と出会って結婚しました。、牧さんに誘われて西粟倉・森の学校さんの立ち上げに半年ほどグラフィックデザイナーとして参加した後は、ようびさんと場所をシェアして、からくり玩具ばかり作り続けて、2年後くらいに西粟倉に移住・独立しました。

独立後もからくり玩具を試行錯誤しながら作りつつ、展覧会やクラフト展したり、ネット販売もしてたんですがなかなか売れず。貯金がどんどん減って苦しい時期がしばらく続きました。そのうち、じわじわとオンラインで「ペットの振り子時計」が売れ始めて、経営は安定しましたね。

ペットの振り子時計は、亡くなった猫や犬といった、めちゃくちゃ思い入れの強い注文を細かく受けてひとつずつ作るんですけど、出来上がると「あの子が帰ってきた」といって感動して泣かれることもあるんです。デザイナー時代の「ありがとう。いいのできたわ」というレペルとは違う。お客さんとディープな接点のある仕事だなと。日本も含め、香港・タイ・カナダ・スペインといった世界中から何百件の注文を受けてやってるうちに、人とのコミュニケ—ションが苦手な僕でも、この仕事が社会と深くに繋がる重要なきっかけになっていると感じます。

これまでやってきたことが繋がっている実感。やり方にこだわらず仲間を増やしていきたい。

自分が作りたいものをイチから作りたいと思って12年のキャリアを転向させ、木工に没頭してきた関野さん。売れ筋がお客さんの強い思い入れでオーダーメイドされる商品であることの捉え方と、これからを聞いた。

「自分のものづくりがしたい」という作家的な気持ちで食べていけるならいいですけど、夢だけでは生きていけない。自分がやりたいことの核は持ちつつ、心を落ち着けられる環境をつくるという意味で、食べていくということはすごく重要。自分の作りたいものと、お客さんの欲しいもののバランスを考えながらやっていくのが大切かなと思っています。

その意味では、グラフィックデザインをやっていた12年間に培われたスキルと、その後に身につけた木エスキルの集大成として今があり、やりたいことと、喜んでもらえることがバランスよく仕事になっていると感じます。設計・デザインすること、イラスト描くこと、図面展開、そして木工、みたいな総合的な作業でね。

今後は岡山での足を使った営業もしていって、地盤ができれば、積木とかからくりも売れてくれるんじゃないかなと思っています。そういうしつこさが大事ですね。
とはいえ道具と材料があればどこでも仕事ができるので、これからはどこか移動しながら働くか、冬だけ台湾とか海外に移住するのもありかもしれないです。「ペットの振り子時計」も振り子のデザインだけを他のイラストレーターさんに提供してもらうとかそういうこともできるし、そうなったら面白いかもしれません。(ただいま、3作家様とのコラポ・デザインもラインナップしています。)

関野さんの自宅入り口に掲げられた看板。
関野さんがこれまでにデザインしてきたオートマタの数々。動かしてみると、とても絨細で特徴的な動きをして、見ていて飽きない。
オートマタ「水車クマ」。森の中の水車を回すクマを鹿やうさぎ、鳥たちが眺めている。
猫や犬の振り子時計たち。飼い主のペットに対する思い入れを受け止めて、一つ一つ丁寧に形にしている。
旋盤で振り子時計の部品を切り抜く関野さん。

※この記事の内容は2018年時点のものです。

関野意匠室+絡繰堂(セキノイショウシツ+カラクリドウ)

ADRESS:〒707-0504 岡山県英田郡西粟倉村在住
WEB:https://sdratm.jimdo.com/