道前さんが語る、あるべき酒屋の姿

日本酒酒屋 【酒うらら】道前理緒さん

大学時代に通っていたセミナーの懇親会で、「キミ毎回来てるし、お酒も好きそうだし、やってみる?」とインターンに誘われまして。「蔵の取材に行って」と言われ、京都の酒蔵に1週間泊まり込みで取材に行きました。

元々日本酒好きだったのですが、取材の準備を通して微生物や歴史といった知識を得て、ぐっと引き込まれました。取材では農家の人が「いつかは自分の育てた米でお酒を造りたい」と話すのを聞いたり、蔵でお酒を作る人と寝食を共にしたり、毎晩飲んで語らったりして造り手の心意気に触れることができ、お酒造りってすごく面白いと感じたんです。

就職してからもお酒好きは変わらず、休日には蔵に行ったり、お酒のイベントに参加したり手伝ったりしていました。出張ついでに各地で日本酒を飲めるお店に行って、お店の人に教えてもらったり。蔵の人とも仲良くなり、いずれ日本酒の仕事をしたい、それなら日本酒バーをしようかな、と考え始めていました。

ちょうどその頃、西粟倉にいた牧大介さんから久々にメールが来て、「村に酒屋があったら楽しいなと思うんだけど、どう?」と。タイミング良すぎ(笑)。ただ酒屋は日本酒バーと比べると利益率がすごく低い。「いけるか分からないな」と感じたけれど、いけると感じることをやっても面白くない。

未知の場所へ行って自力で立ち上げてみたかったし、都会でやるより田舎で成功させたときのほうがインパクトあるなと。それで会社を辞めて西粟倉へ移住し、2014年の4月に『酒うらら』を開業しました。

日本酒業界の体質は古く、今も日本酒を置けば売れていた頃の残り香で生きている現状がある。ワインや他のお酒が登場して、競争が激しくなっているにも関わらず、商品管理なども効率的でないのだという。 ほとんどの蔵と酒屋が、自分の力で商品をPRするということができてないんです。ならば酒屋の立場から自分がやろうと思い立ったんです。

って、「安いお酒」じゃなくて、もっと「いいお酒」を飲みたいじゃないですか。  移住してすぐは、店の隣で固定のバーをやろうかなと思っていたんです。でも色々計算していたら毎日20人くらいお客さんが来ないと売上が立たない。それなら、と思い立って、出張バーを始めました。あれは天才的なひらめきでした(笑)。

元々日本酒があるところではなくて、ゲストハウスやカフェ、日本酒をあまり知らないようなところに、店からセレクトした日本酒を持って行ったんです。仕入れたお酒を店舗に来た人に売る以外に、イベントに出店したり、出張バーをやったりということを3年間続けてきたら、そんなことやっている人が他にいないから話題になって。結果、お客さんが割とついてくれて、酒屋のほうもそこそこお酒が売れたんです。

 

そして、いまは私が勧めるお酒が岡山市内でどんどん広まってきて、岡山のお酒が全国的にも結構注目されてきているように感じます。酒屋の力で、変えられることはある。酒屋って、本来は蔵と消費者、飲食店の間をつなぐことのできる業界の「核」なんだと確信してます。

道前セレクトを各地に届ける出張日本酒バー酒屋は、人をつなぐ業界の「核」

いいお酒が飲める地域を増やすために、酒屋ができることはもっとある。最初は自分が酒屋としてやっていけたらいい、と考えていたのですが、今は日本酒業界を立て直さないと業界ごとなくなってしまうのではと危惧しています。 蔵はちゃんといいお酒を作ろうとしていて、飲食店はそれを求め、お客さんに勧めようとしている。お酒を勉強したいお客さんもいる。その間にいる酒屋ができることは、もっとあるはずなんです。だから色々な地域で酒屋向け・蔵向け・飲食店向け、そしてお客さん向けにも講座をしています。 蔵に対しては、酒屋は商品のチェック機能としての役割を果たし、フィードバックすることで、蔵を育てないといけない。 飲食店に対しては、一番お客さんの近くにいるんだから、知識を持って、愛情を持って勧めれば絶対にもっとお酒は売れるってことを伝えたい。 お客さんも勉強したいと思っている人がいるので、正しい飲み方についてのお客さん向けの講座もやってます。

実際に酒屋も工夫すればちゃんと売れるということは私が証明したつもりなので、日本全国にこういう酒屋を増やしたいし、育てたい。いいお酒が飲める地域を増やしたいんです。 ただ、自分だけ売れて儲かればいいや、という考えではなくて。日本酒業界全体の底上げになるようなことを考えて、これからもやっていきたいと思っています。 

酒うららHP:https://sakeurara.com 写真: MOROCOSHI(https://morocoshi.com/)